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東京地方裁判所 昭和60年(ワ)14783号・昭58年(ワ)10597号 判決

主文

一  本訴被告野口正一及び同野口トミは、本訴原告に対し、本訴原告が別紙物件目録(一)記載の土地のうち別紙図面(一)のの各点を結ぶ直線によって囲まれた部分の土地を通路として使用することを妨害してはならない。

二  本訴被告野口正一は、本訴原告に対し、別紙物件目録(一)記載の土地のうち別紙図面(一)のの各点を結ぶ直線上にあるコンクリート・ブロック塀を収去せよ。

三  本訴原告の本訴被告野口正一に対するその余の本訴請求及び反訴原告野口正一の反訴請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用のうち、反訴について生じた費用は、反訴原告(本訴被告)野口正一の負担とし、その余の費用は、これを四分し、その一を本訴原告(反訴被告)の負担とし、その余を本訴被告(反訴原告)野口正一及び本訴被告野口トミの負担とする。

事実

(略称)以下においては、本訴原告・反訴被告横山恒佳を「原告」と、本訴被告・反訴原告野口正一を「被告正一」と、また本訴被告野口トミを「被告トミ」と、それぞれ略称する。

第一当事者の求めた裁判

(本訴)

一  請求の趣旨

1 被告らは原告に対し、原告が別紙物件目録(一)記載の土地のうち別紙図面(一)のの各点を結ぶ直線によって囲まれた部分の土地を通路として使用するのを妨害してはならない。

2 被告正一は原告に対し、別紙図面(一)のの各点を結ぶ直線上にあるコンクリート・ブロック塀、鉄階段及び物置等の工作物を収去せよ。

3 訴訟費用は被告らの負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

(反訴)

一  請求の趣旨

1 原告は被告正一に対し、別紙物件目録(三)記載の建物を収去して別紙物件目録(二)記載の土地を明渡し、かつ昭和六〇年一二月六日から右明渡済みまで一か月金一万八〇〇〇円の割合による金員を支払え。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 第1項につき仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

1 被告正一の請求を棄却する。

2 訴訟費用は被告正一の負担とする。

第二当事者の主張

(本訴)

一  請求原因

1 原告の土地賃借権

(一) 別紙物件目録(二)記載の土地(以下「乙地」という。)は、被告正一の所有である。

(二) 原告の父・訴外横山正光(以下「正光」という。)は、昭和二二年ころ被告正一から乙地を非堅固建物所有を目的として賃借し、乙地に建物を建築して、これに居住していたが、昭和四二年一月一二日被告正一との間で、期間を更に二〇年として賃貸借を更新した。

(三) 正光は、その後の右建物を増築して昭和四二年四月五日付で所有権保存登記をした(この建物が別紙物件目録(三)記載の建物であって、以下これを「本件建物」という。)。

(四) 正光は、昭和四五年一月二四日死亡し、原告が相続により本件建物の所有権とともに乙地の賃借人の地位を承継した。

2 乙地を囲繞する土地の状況

(一) 乙地は、渋谷区西原一丁目二五番五、同所二五番七、同所二五番一〇及び同所二五番三の各土地に囲繞され、公道に接していない。その状況は、別紙図面(二)記載のとおりである。

(二) 右土地のうち、渋谷区西原一丁目二五番五の土地(以下「甲地」という。)は、被告正一の所有であったところ、被告正一は昭和五五年一二月一六日甲地に対する三二八四分の一〇六〇の持分を妻である被告トミに贈与したので、現在甲地は、被告正一及び被告トミの共有であって、その共有持分は、被告正一が三二八四分の二二二四、被告トミが三二八四分の一〇六〇である。被告正一は、甲地の上に建物を所有し、被告トミとともに居住している。甲地の東側は公道に面し、西側は乙地に接している。

(三) 渋谷区西原一丁目二五番七の土地(以下「丙地」という。)は、訴外伊藤雄康(以下「訴外伊藤」という。)の所有である。

(四) 渋谷区西原一丁目二五番一〇の土地は訴外桜井久雄の、同所二五番三の土地は訴外梅沢ミキ及び同田中かほるの所有名義とされている。

3 原告の通行権

(一) 原告の先代・正光及び原告は、次のようにして乙地から公道に出ていた。

① 正光が乙地を賃借して居住した当初は、甲地内の、南側境界線から北側に幅約三メートルの通路が開設され、そこを日常的に通行していた。右の通路は、その後甲地上の建物の拡張に伴ない、その幅が約三メートルから約一・八メートルと狭められたものの、通路として存続し、正光が約二〇年にわたり通路として使用していた。

② 昭和四一年五月ころ、被告正一が甲地上の同人所有の家屋を増築するに際し、正光に対し、甲地内に原告のための通路部分が存在すると、建ぺい率の関係で被告正一の希望に沿った建物が建築できないので、建築確認が終るまで、甲地内の通行を見合わせてほしい、との要望があった。

③ そこで、正光は、甲地内の通行を一時見合わせ、北側に隣接する丙地内の空地部分を、所有者である訴外伊藤の好意により通行するようになった。

④ ところが被告正一は、甲地と乙地との境にプロック塀を設置したため、甲地内の通行は事実上不可能となり、その後正光を相続した原告も、被告正一に対する通路再開の要求をしないまま、訴外伊藤の好意により丙地内を通行していた。

(二) しかしながら、そもそも被告正一は、公道に面していない乙地を原告に賃貸しているのであり、この乙地は、被告正一所有の甲地に隣接し、かつ甲地が公道に面しているのであるから、被告正一は原告に対し、乙地を使用収益させる義務の一環として、甲地を通行させる義務を負う。

(三) 昭和五七年一一月ころ、訴外伊藤が丙地の上にマンションを建築する計画を立て、原告に対し、賃貸人である被告正一所有の甲地内を通路として使用するよう求めたことを契機として、原告は、被告正一、訴外伊藤及び甲地に隣接する渋谷区西原一丁目二五番一七の土地(以下「丁地」という。)の所有者・訴外外山武次(以下「訴外外山」という。)との間で原告の通路について協議をした。その結果、昭和五八年三月一七日右の四者間で、次のような合意が成立した(以下この合意を「三月一七日付合意」という。)。

① 原告が公道へ出るための通行に支障を生じさせないため賃貸人である被告正一は、従前と同様に甲地内の庭側の幅員一・八メートルの部分の通路を再開する。通路再開の妨害物を除去する費用は原告の負担とする。

② 訴外伊藤も、工事完成後は原告に従前どおりの通行を認める。

③ 工事中、訴外外山と被告正一の各所有地の境界付近を原告は通行できる。

右の合意によって、被告正一は原告に対し、甲地内の庭側の幅員一・八メートルの部分を原告が公道に出るための通路として通行させることを約した。

4 被告トミの通行受忍義務

(一) 被告トミは、前記のとおり甲地の持分の贈与を受け、その所有権を取得したから、乙地は、被告トミに対する関係では、袋地となった。原告は、乙地につき対抗力のある賃借権を有しているから、被告トミに対し、囲繞地通行権を有している。

(二) 被告トミは、被告正一と同居している妻であって、被告正一がした三月一七日付合意がなされた経緯については十分認識しており、被告正一がした右合意につき、黙示的に同意を与えていた。

5 通路の現状及び被告らの対応

(一) 原告は、以上の経過により、甲地内の、少なくとも別紙図面(一)のの各点を結ぶ直線によって囲まれた部分の土地(以下この土地部分を「本件土地」という。)につき通行権を有しているが、被告正一は、この本件土地内に、コンクリート・ブロック塀、二階の物干場へ昇降するための鉄階段及び物置を設置している。これらの工作物は、原告が本件土地を通路として利用するにつき、往来の妨げとなり、通行の妨害となっている。

(二) しかるに、被告らは、三月一七日付合意が成立した直後ころから、原告は丙地を通行すべきだと主張して、本件土地を原告に通行させる義務を履行しない。

6 結論

よって、原告は、被告正一に対しては、乙地に賃借権を有することの効果として又は三月一七日付合意に基づき、また被告トミに対しては、賃借権に基づく囲繞地通行権又は右合意に基づき、原告が本件土地を通路として使用することの妨害禁止を求めるとともに、被告正一に対し、本件土地内にある前記工作物を収去するよう求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2の事実中、(一)ないし(三)は認めるが、(四)は不知。

3 同3(一)の事実について、

①のうち、正光が当初甲地内の庭側の部分を通行していたことは認めるが、その余は否認する。正光は、後記のとおり、通常は訴外伊藤所有にかかる丙地内を通行していたから、甲地内を通行することは稀なことであり、しかも正光が甲地内を通行していたのは、昭和三六年までである。

②は否認する。

③のうち、正光が訴外伊藤所有にかかる丙地内を通行していたことは認めるが、その余は否認する。

④のうち、被告正一が甲地と乙地との境にコンクリート・ブロック塀を設置したこと及び原告がその後甲地に通路の再開を求めることなく、丙地内を通行していたことは認めるが、その余は否認する。コンクリート・ブロック塀の設置は、昭和三六年のことである。

4 同3(二)の事実は否認する。

5 同3(三)の事実中、訴外伊藤が丙地内にマンションを建築する計画を立て、原告の通行について関係当事者間で協議が行われたこと及び昭和五八年三月一七日に②③の合意ができたことは認めるが、その余は否認する。右の合意によって、被告正一が認めたことは、訴外伊藤が丙地内にマンションの工事をする期間中のみ、原告に対し、甲地と丁地の境界付近を通行することだけである。

6 同4の事実中、被告トミが甲地の持分の贈与を受けたこと及び被告トミが被告正一の同居の妻であることは認めるが、その余は否認する。

7 同5の事実中、被告正一が本件土地内にコンクリート・ブロック塀、二階の物干場へ昇降するための鉄階段及び物置を設置していることは認めるが、その余は否認する。

8 同6は争う。

三  抗弁

1 通行権の放棄

(一) 正光は、昭和二〇年代から、訴外伊藤所有にかかる丙地内を通行していた(その場所は、おおむね別紙図面(三)に青斜線で表示した部分であって、これを「丙地内通路」という。)。正光は、当時ボール箱を製造する仕事をしており、製造したボール箱を丙地内通路から自動車で運搬しており、正光は、訴外伊藤に対し、右通行についての使用料を支払っていた。

(二) 昭和三六年ころ、正光は被告正一に対し、丙地内通路を使用料を支払って通行し得るので、甲地内を通行する必要はないと申し入れて来たため、そのころ、正光と被告正一との間で、正光は甲地内の庭の部分を通行しないことの合意が成立した。そこで被告正一は、そのころ、右合意に基づき、甲地と乙地との境にコンクリート・ブロック塀を設置したのであって、それ以来正光及び原告が本件土地を通行したことはなく、また通行したいと申し入れて来たこともなかった。

(三) このように正光は、甲地内の通行権を放棄したのであって、昭和四二年一月一二日に更新された乙地の賃貸借契約は、正光が丙地内通路を通行し、甲地内を通行しないとの合意があることを当然の前提としてなされたものである。

2 賃貸借の終了

反訴において主張するとおり、乙地についての賃貸借は終了した。

3 権利の濫用

原告は、丙地内にマンションが建築された現在、丙地内に約一メートル幅の通路を有しているから、本件土地を通行する必要性は全くなく、単に、形式的に自己の権利を主張しているにすぎない。これに対し被告らは、原告に本件土地を通行されることになると、直接被告正一方の部屋が見通され、被告ら一家のプライバシーの保持もできなくなる。加えて、被告正一がコンクリート・ブロック塀を設置したのは、正光との合意を信頼したからであるし、さらに、被告正一は、昭和四一年ころ、甲地内の従前正光が通行していた庭の部分に、被告正一所有の建物一階を約二メートル張り出して増築したり、二階を増築し、また二階の物干場へ昇降するための鉄階段及び物置を設置したのである。このような工作物を収去してまで本件土地の通行権を主張するのは、権利の濫用であって、許されない。

四  抗弁に対する認否

1 抗弁1の事実中、正光がボール箱を製造する仕事をしており、製造したボール箱を自動車で運搬するのに丙地内を通行していたことは認めるが、その余は否認する。丙地内の通行は、訴外伊藤の好意によるものであって、正光が訴外伊藤に対し、通行についての使用料を支払っていたとの事実は全くない。

2 抗弁2については、反訴請求原因2に対する答弁のとおりである。

3 抗弁3の主張は争う。土地の賃借人が日常生活のため公道に出ることは賃借土地を利用するうえでの不可欠の事項であり、賃借人のため通路を確保すべき第一次的義務を負担しているのは、賃貸人たる被告正一である。丙地内の通行は、あくまでも訴外伊藤の好意によるところであって、もしこれが権利にまで高められ、他方、賃貸人である被告正一がその責任を果たさないことになると、訴外伊藤が丙地内の通行を拒否することは確実である。

(反訴)

一  請求原因

1 乙地の賃貸借

(一) 被告正一は、昭和二二年ころ正光に対し、乙地を非堅固建物所有を目的として賃貸し、正光は乙地に建物を建築して、これを住居としていたが、昭和四二年一月一二日右賃貸借は次の約定で更新された。

① 期間 昭和四二年一月一二日から二〇年

② 賃料 月額金四五〇〇円

③ 特約 貸主の承諾なく増改築できない。

(二) 正光は、昭和四五年一月二四日死亡し、原告が相続により乙地上の本件建物の所有権とともに乙地の賃借人の地位を承継した。また、乙地の賃料は、その後増額されて、月額金一万八〇〇〇円となった。

2 賃貸借の終了

(一) 本訴抗弁において主張したとおり、正光は、丙地内に公道に出るための通路を有していたため、昭和三六年ころ、正光と被告正一との間で、正光は甲地内を通行しないことの合意が成立し、右の合意を信頼した被告正一は、そのころ、甲地と乙地との境にコンクリートブロック塀を設置し、さらに、昭和四一年ころ、甲地内の従前正光が通行していた庭の部分に被告正一所有の建物一階を約二メートル張り出して増築したり、二階を増築し、二階の物干場へ昇降するための鉄階段及び物置を設置した。その結果、甲地内の庭の部分は、通行が物理的に不能とはいえないまでも、不適当な土地になったのであって、昭和四二年一月一二日に更新された乙地の賃貸借契約は、正光が丙地内通路を通行し、甲地内を通行しないとの合意があることを当然の前提としてなされたものである。正光の賃借人たる地位を承継した原告が、丙地内に通路を有するにかかわらず、乙地の賃貸借を維持するためには甲地内を通行する必要があるとするならば、乙地は、もはや法律的には、賃貸借契約の目的物とはなり得ない土地となったものとして、乙地の賃貸借は、遅くとも反訴の提起時には終了したものというべきである。

(二) 原告は、丙地内通路につき、訴外伊藤に対し通行権を有しているか、又は少なくとも通行権を主張し得る事実状態を形成して来たのであるから、これを確保し、反面甲地内を通行しないで済むようにすることは、乙地の賃貸借契約における、原告の被告正一に対する附随的義務である。しかるに、原告が丙地内通路の通行を権利としては主張できないということは、すなわち故意又は過失により右の権利行使を怠り、その結果丙地内通路を失ったことを意味するのであって、乙地の賃貸借における信頼関係を破壊するものである。そこで被告正一は、反訴状をもって、原告に対し乙地の賃貸借を解除するとの意思表示をする。

(三) 乙地の賃貸借は、昭和六二年一月一一日の経過をもって、期間が満了することになったので、被告正一は原告に対し、反訴状をもって更新拒絶の意思表示をした。右更新拒絶には、次のとおり正当の事由がある。

① 被告正一が甲地内の本件土地を通行させなければならないことになると、被告正一は、反射的に多大の不便・不利益を被ることになる。しかもこのような不便・不利益は、その一端の責任が原告の所為に由来しているのである。

② 被告正一は、現在妻(被告トミ)と娘夫婦及びその子二名と同居して生活しているが、娘一家は一階六畳三間、四畳半一間、二畳一間のうち、六畳二間を使用している(なお二階部分には間借り人がいる。)。そこで、被告正一は、娘一家のため乙地に住居を与え、自分達夫婦も平穏に余生を送りたい考えである。

③ 被告正一は、補充的に金員を提供する用意がある。

3 結論

よって、被告正一は原告に対し、貸賃借の終了に基づき、本件建物を収去して乙地を明渡すよう求めるとともに、反訴提起の日の翌日である昭和六〇年一二月六日から明渡済みまで月額金一万八〇〇〇円の割合による賃料相当損害金の支払いを求める。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因1の事実は認める。

2 同2(一)の事実中、甲地と乙地との間にコンクリート・ブロック塀及び鉄階段等が設置されたこと、甲地内の被告正一所有の建物が増築されて現在のような状況となったことは認めるが、その余は否認する。

3 同2(二)の事実は否認し、主張は争う。

4 同2(三)の事実中、乙地の賃貸借が昭和六二年一月一一日限り期間が満了すること及び更新拒絶の意思表示があったことは認めるが、その余は否認する。被告らの家族が生活するには、甲地内の被告正一所有の建物により、十分な空間が確保されているのに対し、原告は、四人家族で本件建物に居住し、これを生活の根拠としているものであって、被告正一には、更新拒絶につき正当事由はない。

第三証拠《省略》

理由

第一本訴について

一  請求原因1の事実及び同2のうち(一)ないし(三)の事実は当事者間に争いがない。そして同2の(四)の事実を認めるに足りる的確な証拠はないが、弁論の全趣旨によれば、同記載の土地が、少なくとも、原告又は被告らいずれの所有に属するものでもないことについては、争いがないものと解される。

二  先ず、乙地の賃貸借に基づく通行権について考える。

1  およそ、公道に面する一筆の土地の所有者が、その土地のうち公道に面しない部分を賃貸し、その残余の公道に面する部分を自ら使用している場合には、所有者と賃借人との間において通行に関する別段の特約をしていなかったときでも、所有者は、賃借人に対し賃貸借に基づく賃貸義務の一内容として、右残余地を当該賃貸借契約の目的に応じて通行させる義務があるものと解される(最高裁判所昭和四四年一一月一三日判決、裁判集九七号二九五頁参照)。右のような公道に面しないことになる賃貸借の目的土地を、仮に「準袋地」と呼ぶとするならば、前項の事実(なお、《証拠省略》によると、乙地が渋谷区西原一丁目二五番五の土地から分筆されたのは昭和五六年三月九日であったことが認められる。)によると、分筆前の乙地部分は準袋地であって、被告正一は、昭和二二年正光に対し乙地部分を賃貸した契約の効果として、公道に面する甲地部分を通行させる義務があったものというべきである。

そして、正光が当初、甲地内の庭の部分を通行していたことは当事者間に争いがない。

2  そこで、その後の通行の実状について見るに、

(一) 《証拠省略》によると、その通路は甲地の南側境界線に沿った帯状の部分であって、ほぼ別紙図面(一)に表示された本件土地に相当すること及び昭和三五年ころまでは、乙地と甲地の境界線に当たる同図面の点を結ぶ線上付近に、幅三尺程の木戸が設置されており、右の通路は通行可能な状態にあったことが認められる。

(二) ところが、《証拠省略》には、右の木戸が設置されていた場所付近にコンクリート・ブロック塀が写っていることが認められる。右の事実に《証拠省略》によれば、《証拠省略》に写っているコンクリート・ブロック塀は、被告正一が昭和三六年一一月ころ、正光に賃借している土地部分を正確に測量し直し、これと自己が使用している甲地部分との境界線上に設置したコンクリート・ブロック塀の一部なのであって、このような塀の設置によって、乙地から甲地内の本件土地を通って東側の公道に出ることは、事実上不可能になったことが認められる。(原告は、コンクリート・ブロック塀の設置が昭和四一年であると主張するが、右の証拠に照らし、到底採用できない。)。

(三) 他方、《証拠省略》によると、昭和三二年ころまでは、乙地の北側に接する丙地の大部分は空地であったから、正光はこの空地を通ってその北側の公道に出ることができたこと、丙地の所有者である訴外伊藤が昭和三三年ころ丙地内に家屋を建築したが、右建物とその西側の山陽紙器の建物との間は自動車が通れる程の空間があったから、その後も正光は、この空間を通って北側の公道に出ることができたこと(これが別紙図面(三)に青斜線で示されている丙地内通路である。)、のみならず、正光は、当時ボール箱を製造する仕事をしており、製造したボール箱を丙地内通路から自動車で運搬していたこと(このことは当事者間に争いがない。)、また、昭和四〇年ころ山陽紙器が建物を建て替えた際、山陽紙器が費用を出して丙地内通路の部分をアスファルト舗装し、昭和五〇年ころからの約二年間、原告が訴外伊藤に頼んで、丙地の南側部分を自動車駐車場所として使用させてもらったこともあること、等の事実が認められる。そして、前記のように乙地と甲地との間にコンクリート・ブロック塀が設置されてから後は、正光及び同人を相続した原告は、甲地内の通路再開を要求することなく、かえって、このような丙地内を通行して公道に出ていたのであって、この事実は当事者間に争いがない。

3  被告らは、正光が訴外伊藤に丙地内通路の通行について使用料を支払っており、昭和三六年にコンクリート・ブロック塀を設置するについては、正光が甲地内の本件土地を通行しないとの合意をし、正光は甲地内の通行権を放棄したと主張し(抗弁1)、《証拠省略》はこれに沿う供述をしている。しかしながら、右供述中、正光が訴外伊藤に使用料を支払っていたとの点は、確かな裏づけもなく、《証拠省略》と対比し、採用できない。かえって、右の《証拠省略》によると、訴外伊藤は、正光及び原告に対し、隣人としての好意から丙地内通路の通行を承認していたものであって、正光及び原告のため通路を開設したものではないことが認められる。

もっとも、《証拠省略》によると、正光は、昭和四二年ころ乙地上の建物を増築したが、増築後の本件建物南西角部分の外壁と右の塀及び南側隣地の塀との間隙は約五〇センチメートル程度で、極めて狭く、仮に前記のような木戸が存在したとしても、この間隙を通って木戸の場所まで行けるかどうか疑わしい程であり、他方本件建物の通常の出入口は、北向きに、丙地に面して作られていることが認められる。したがって、本件建物は、本件土地を通路として使用することを念頭に置かないで増築されたものと推認されるのであって、この事実に《証拠省略》を合わせると、被告正一が昭和三六年にコンクリート・ブロック塀を設置するについては、少なくとも正光の承諾があり、正光は本件土地を通行しないことを了解していたものと認めるのが相当である。そして、このように正光が本件土地を通行しないことを了解していたことをもって、通行権の放棄というならば、そのように解されないではない。しかしながら、右に認定したように、正光及び同人を相続した原告の丙地内通路の通行は、訴外伊藤の好意に基づくものであって、丙地内に第三者にも主張できる程の強い効力のある通行権が確立していたとは、いまだ認められない。そうすると、乙地が準袋地であることには変りがないのであって、正光が右のような了解を与えたとしても、賃貸人である被告正一が準袋地を使用収益させることの義務の一内容としての、甲地を通行させる義務は、潜在的には、依然として存続していたものというべきである。

4  被告らは、賃貸借の終了を主張する(抗弁2)が、これが理由のないことは反訴に対する判断の項で示すとおりである。

三  次に、三月一七日付合意について考える。

1  昭和五七年一一月ころ、訴外伊藤が丙地の上にマンションを建築する計画を立て、原告の通行について関係当事者間で協議が行われたことは当事者間に争いがなく、この事実に《証拠省略》を総合すると、次の事実が認められる。

(一) 訴外伊藤は、昭和五七年一一月ころ、丙地内の建物をマンションに建て替える計画を立て、その妻伊藤栄子がそのころ原告方に赴き、原告にその旨を伝え、丙地内を子供などが通ると危ないので野口さんの方を通るようにしてもらいたいと申し入れた。この申入れがなされてから約一週間後、被告正一が訴外伊藤方を訪れ、伊藤栄子に対し、横山は元来うちの方を通らなければならないのに伊藤さんの方を通してもらって申し訳ない。すぐにでもうちの方を通れるようにしますと述べ、被告正一方の庭となっている部分(おおむね本件土地の部分)を原告に通行させることを約束した。

(二) ところで、本件土地を原告に通行させるには、前記のとおり乙地と甲地との境界の、もと木戸があった付近のコンクリート・ブロック塀を撤去することが必要であるのに、被告正一はこれを撤去することなく日時が経過した。そこで、訴外伊藤又は同人からマンションの設計を依頼されていた酒井武夫が被告正一と交渉したところ、昭和五八年一月ころになって被告正一は、裏の方を通させるようにすると言い出し、同年二月ころ丁地と甲地との境界線上にあったブロック塀を取り壊しに掛かった。ところが、右境界線と被告正一方の建物の北側壁面との間隙は極めて狭く、もしこの部分を通ろうとするならば、必然的に丁地の一部をも利用することになるのであって、これを放置すれば丁地に永続的な通行権を認めることになり、それは困るとの苦情が丁地の所有者である訴外外山から出された。

(三) そこで再度話合いがなされ、被告正一の側から、乙地を訴外伊藤に買取ってもらいたいとか、被告正一方建物の北側の一部を削るなどが案が出されたものの、このような案でまとまるには至らず、元にもどって、被告正一が南側の部分を開けることになった。

(四) このような経過の後、酒井武夫が念書を起案し、これに原告、訴外外山、被告正一、伊藤栄子及び訴外伊藤が署名捺印したのであって、右念書には次のように記載されている。

① 伊藤栄子、雄康の共同住宅工事に関し、横山殿が工事期間中、野口殿・外山殿の敷地を、通路として使用させていただきたいと思います。

② 但し、工事期間中のみとします(工事完成後は伊藤殿の通路を使用できます。)

③ 地主である野口殿は、横山殿に貸している通路を、従来通り必要に応じ通行する事を認めます。但しその費用は横山殿の負担とします。

(五) これが三月一七日付合意であって、訴外伊藤がこれに調印したのは、その③項で本来の義務者である被告正一が本件土地を通路として再開することを約したからである。そして原告としては、この合意により、甲地内の庭の部分につき通行権が確保されたものと理解したものの、念書の記載では通行できる場所が明らかでないとの原告の勤務先会社の社長の助言により、原告は、翌日酒井武夫とともに被告正一方に赴き、通行できる場所を確認してもらう趣旨で、持参した図面(甲地内の南端に幅一・八メートルの通路が記載された《証拠省略》)に被告正一の署名を求めたところ、被告正一はこの図面に自ら署名捺印をした。

以上のとおりであって、《証拠省略》中、右の認定に反する部分は採用できず、他にこの認定を左右する程の証拠はない。

2  右認定の事実に基づいて、三月一七日付合意の趣旨について考えるに、念書の③項は、その記載自体からしても、また念書作成に至る経緯及びその後に被告正一が署名捺印した図面の記載からしても、被告正一が甲地内の庭側南端の幅員一・八メートルの部分につき、賃貸人として原告の通行を認め、その通路を再開することを約したものであると解する外はない。被告正一本人は、右念書は単に建築確認を得るための便宜的なものにすぎないとか、③項には重きを置かなかった等と述べているが、にわかに採用できない。また、被告らは、右念書で約束したのは、単に工事中のみ丁地との境界線付近の通行を認めただけであると主張するが、③項の文言を全く無視した主張であって、理由がない。

前段認定の事実によれば、賃貸人である被告正一は、原告に対し準袋地である乙地を使用収益させる義務の一環として、甲地を通行させる義務を負担しているのであるから、右の合意は、この義務を確認するとともに、その範囲を確定し、閉鎖されていた通路の再開を約したものということができる。そして《証拠省略》によると、本件土地は右の幅員一・八メートルの部分のうちの一部であることが明らかであるから、原告は本件土地につき通行権を有していることになる。

四  被告トミとの関係での通行権について

(一)  前記一の事実によると、被告正一が昭和五五年一二月一六日に甲地の持分の一部を被告トミに贈与した(なお、《証拠省略》によると、登記簿上、右贈与は、乙地が分筆される前の甲地全体についてなされたものとして所有権移転登記がなされたが、昭和五六年三月九日乙地が分筆された後の同年三月一三日付で、乙地部分の贈与は錯誤であるとして、その部分の移転登記は抹消されている。)ことにより、乙地は、甲地の新たな所有者・被告トミに対する関係では、袋地となったものということができる。してみると、乙地につき対抗力のある賃借権を有している原告は、被告トミとの関係において、民法第二一三条第二項の規定により、囲繞地通行権を有することになったものというべきである。

(二)  また、被告トミが被告正一の同居の妻であることは当事者間に争いがないから、被告トミは、三月一七日付合意に至る被告正一と訴外伊藤らとの交渉経緯については十分知り得る状況にあったものというべきところ、《証拠省略》によると、被告トミは、三月一七日付合意調印の際立ち会っていたのに、何らの異議も差しはさまなかったことが認められるから、夫である被告正一の行為につき黙示的に同意を与えていたものと認めるのが相当である。

(三)  してみると、被告トミは、原告が本件土地を通行することを受忍する義務がある。

五  通行妨害の禁止及び工作物の収去請求について

1  被告正一が、本件土地内の別紙図面(一)の点を結ぶ線上にコンクリート・ブロック塀を設置しているほか、二階の物干場へ昇降するための鉄階段及び物置を設置していることは当事者間に争いがなく、《証拠省略》によれば、本件土地内には被告正一方建物の一部が張り出しているほか、南側隣地との境界の塀に沿って多くの樹木・草花が植えられ、あるいは盆栽を置く台が設置されているなどの状況であって、人が歩くことのできる有効幅員は、狭い所で約一メートル程度にしかならない部分もあり、被告方ではこれを庭として、又は自宅の通路として使用していることが認められる。そして被告らが、原告に対し、本件土地を通路として使用することを拒絶していることは、弁論の全趣旨に照らし明らかである。

2  ところで、原告の被告正一に対する通行権が、準袋地である乙地に賃借権を有していることの効果及び三月一七日付合意に基づくものであることは、以上に示したとおりであるから、右通行権の内容は、乙地を使用収益する目的及び前記合意にあらわれた当事者の意思に基づき、通路を必要とする程度、通行によって受ける双方の利益・損失等を総合考慮して、合理的範囲で決するのが相当である。そこでその前提となる事実関係について見るに、《証拠省略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件土地内の、別紙図面(一)の点を結ぶ線上に設置されたコンクリート・ブロック塀の存在によって、乙地からの通行が不可能となっていることは前記のとおりであるが、もしこの部分の塀が撤去された場合には、それ以外の工作物は、ある程度通行の妨げとなるにしても、その存在によって通行が全く不可能となるものとは認められない。正光が本件土地を通行することができた時期においても、本件土地の南側の隣地との境界の塀に沿った部分には樹木が植えられていたから、完全に一・八メートル幅の通路が確保されていたかは、必ずしも明らかではない。また、右の工作物は、いずれも正光が甲地を通行しないことについて了解を与えた後、建設されたものである。

(二) 一方、本件建物南西角部分の外壁と乙地甲地間のコンクリート・ブロック塀及び南側隣地の塀との間隙が極めて狭いことは前記のとおりであり、原告がこの間隙を通ってどのように本件土地にまで至るのかが明らかでないのに対し、原告の本件建物の出入口が丙地に面した場所にあり、専ら、丙地内通路を通って公道に出るような建て方になっていることは前記のとおりである。したがって、本件土地を通路として日常的に使用しようとするならば、本件建物にかなり大がかりな改造を加えることが先決と考えられるところ、乙地の賃貸借には反訴請求原因1(一)のとおり建物の増改築を制限する特約が付されている(この事実は当事者間に争いがない。)から、原告が本件建物の改造をするには、被告正一との協議が必要であるのに、かかる協議がなされた事実もない。

(三) 他方、訴外伊藤が丙地上にマンションを建設した結果、丙地内通路は狭くなったものの、同マンションの西側外壁と山陽紙器の建物の東側外壁との間には、なお約一メートルの間隙が保たれており、人が自転車を押しながら、又は傘をさしながら、北側公道に出ることが十分可能である。そして訴外伊藤は、三月一七日付合意によって原告に対し、この部分を通路として使用することを認めている(念書②項の括弧書き)から、現在では、原告が公道に出る方法は一応は確保されている。

(四) 右念書③項、特にその但書において当事者が意図していたところは、コンクリート・ブロック塀を撤去し、本件土地を通行できるようにすることを前提とし、その費用の負担者を定めたものである。コンクリート・ブロック塀の撤去からさらに進んで、もし本件土地内にある工作物を全部撤去するとすれば、被告正一方建物の一部を削り取るような工事を初めとして、二階の物干場へ昇降するための鉄階段を撤去するなど、被告正一方の日常生活にかなりの影響を及ぼすような工事をする必要があると予想されるところ、三月一七日付合意に当たり、被告正一がこのような工事をすることまでを約した事実はない。

3  以上の事実関係に基づいて考えるに、

(一) 原告は本件土地に通行権を有しているのであるから、被告らとしては、原告の通行を受忍し、これを妨害してはならず、そのために必要なこととして、被告正一は、最低限度前記点を結ぶ線上のコンクリート・ブロック塀を収去する義務があるものというべきである。

被告らは、権利の濫用を主張するが、訴外伊藤が三月一七日付合意によって丙地内通路の通行を認めたのは、本来の義務者である被告正一が甲地内を通行させることを前提としたものであるから、原告が本件土地の通行を確保することは、単に形式にすぎないとのみいうことはできない。また、本件土地は被告正一の家族が住居としている家屋の庭先であって、ここを原告が通行することによって、被告正一方の私生活上ある程度の苦痛を与えることになるであろうことは容易に推認されるところではあるが、このことは、準袋地となるような乙地を賃貸したことの必然的な結果であるし、本件土地を通行させることは被告正一が約したことなのであって、やむを得ないところというべきである。したがって、権利濫用の抗弁は理由がない。

(二) 次にコンクリート・ブロック塀以外の工作物の収去については、これらの工作物の存在によって通行が全く不可能とまではいえないこと、収去によって被告正一が被る日常生活上の不利益は大きなものがあると考えられるのに対し、原告としては、一応丙地内に日常的に使用することのできる通路が確保されており、本件土地については、人が通行できる場所を確保しておくという必要性以上に、右工作物の撤去を求めなければならない程の差し迫った必要性があるとは認められないこと、三月一七日付合意においても、原告がかかる工作物の収去を求め、被告正一がこれを約束したとは認められないこと、その他以上に認定した事実を総合考慮すると、原告には、本件土地につき通行権はあるとはいえ、少なくとも現段階においては、右工作物の収去を求める権利はないか、又は仮にあるとしても、現段階でこれを行使することは権利の濫用であると認めるのが相当である。

第二反訴について

一  反訴請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  賃貸借終了の主張(反訴請求原因2)について

1  原告は、甲地内の庭の部分は、通行が物理的に不能とはいえないまでも、不適当な土地になったのに、乙地の賃貸借を維持するために、このような甲地内を通行する必要があるとするならば、乙地は、もはや法律的には、賃貸借契約の目的物とはなり得ない土地となったものとして、乙地の賃貸借は終了したと主張する。

しかしながら、被告正一が原告に対し甲地内を通行させる義務があるのは、前叙のとおり、被告正一が準袋地である乙地を賃貸した結果なのであり、しかも被告正一は三月一七日付合意において、甲地内の通路再開を約しているのであって、この義務を果たすことなく、乙地が賃貸借契約の目的物とはなり得ない土地となったなどということは、到底できない。被告正一の右主張は理由がない。

2  また、被告正一は、原告が丙地内通路を確保し、甲地内を通行しないで済むようにすることが、乙地の賃貸借契約における原告の義務であると主張するが、原告のため甲地内通路を確保することこそが被告正一の義務なのであるから、右主張は本末転倒の理屈といわざるを得ず、主張自体失当である。

3  乙地の賃貸借が昭和六二年一月一一日の経過をもって期間満了となることは、当事者間に争いがなく、被告正一が反訴状をもって更新拒絶の意思表示をしていることは、当裁判所に顕著な事実である。

そこで、正当事由の存否について考える。

(一) 《証拠省略》によれば、甲地内にある被告正一の建物は、一階が九八・五〇平方メートル、二階が八一・六八平方メートルであり、この一階及び二階の一部に被告正一とトミ夫婦及び娘夫婦とその子供らが居住していることが認められるが、二階のその余の部分を他に賃貸していることは、被告正一の自認するところであって、乙地の明渡しを求める程の必要性があるかについては、これを肯定させるに足りる的確な証拠がない。

(二) 他方、《証拠省略》によれば、原告は、妻及び子供二名をかかえ、本件建物を唯一の生活の本拠としているものであって、引続き乙地を賃借して本件建物を所有する必要性があるものと認められる。

(三) 被告正一は、原告に甲地内の本件土地を通行させなければならないことになると、反射的に多大の不便・不利益を被ることになると主張し、このようなことがある程度生じるであることは推認するに難くないが、このような不便・不利益の責任が原告の所為に由来しているとする被告正一の主張は、根拠のないところというべきである。

以上のような事実関係によれば、被告正一には、いまだ更新拒絶をするにつき正当の事由があるとは認められず、してみると更新拒絶の意思表示は効力を生じない。そして、原告が期間満了後も本件建物を所有して乙地の使用を継続していることは、以上の事実関係に照らし明らかであるから、乙地の賃貸借は法定更新されたものというべきである。

第三結論

以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、被告らに対し本件土地の通行妨害禁止を求め、かつ被告正一に対し点を結ぶ部分のコンクリート・ブロック塀の収去を求める限度において、正当として認容するが、被告正一に対するその余の請求及び被告正一の原告に対する反訴請求は、いずれも失当として棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 原健三郎)

<以下省略>

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